川村尚也

この「知識創造のための知識経営」では、知識とは、基本的には「個人の信念」だと考えます。私たちの頭の中の単なる情報や普遍的な真理ではなくて、「私はこう考える、これが正しいと思う」という自分の思いが、知識の基礎にあると考えます。そしてそれだけではなく、その「個人の思い」をこういう場所で言葉にして他の人と対話して、コミュニケーションを通じてそれを正当なもの、広くいろいろな人々に理解・納得されるものにしていく「プロセス」を、知識と呼びます。これは、「学校で知識を習得する」といった言い方で私たちが馴染んできた、今までの知識のイメージとは、大変異なる捉え方です。知識の基礎は「自分の思い」で、その思いを言葉にして他人に伝えられなければ、それは知識にはならない。他人に伝えて、「そうじゃないと思う」と言われて、「いや、こういう理由で、私はそう思う」ときちんと議論、対話をした結果、共通の思いができあがっていく。そういうプロセスのことを知識と呼びます。それは、私たちが今、自分の身の回りで起こっていること、状況を理解し行動するための秩序とも言えます。また日本語では「こつ」、「勘」、「ノウハウ」などと言われる、なかなか言葉にし難い知恵も含まれています。それは、私たちが、個人なり集団が何をしたいのか、どういう社会をつくりたいのか、何が本当だと思うのか、つまり自分たちの目的、生きる目的や行為と切り離せないものですし、それと同時に、言葉で語られる性質と、言葉で表現しにくい性質の両方を持っています。